長老「いや剣が喋るわけがなかろうて……」
勇者「いや確かに何か言ってるって。この声聞こえてないのか?」
長老「……まあ聞くだけ聞いてやろう。何と言っておる」
聖剣「>>4」 勇者「アバダケダブラって言ってる」
長老「なんじゃそれは……古代の呪文か何かか……?」
勇者「俺に聞かれてもな」
長老「この剣が確かにそう言ったのじゃな?」
勇者「ああ」
長老「……少し文献を漁って調べてみる必要があるな」
勇者「さっきまで信じてなかったくせにわざわざ調べようとするとかどうしたんだよ」
長老「……」
長老「まあお前が聞こえたと言うのなら……つまりそう言うことなんじゃろな」
勇者「なんだよ、さっきまで信じてなかったくせに」
長老「実はこの村でも限られた者にしか聞かされないとある言い伝えがある」
長老「この台座に刺さった剣ははるか昔、古の魔王を倒した勇者が使ったとされる聖剣じゃ」
勇者「何でそんな剣がこんな田舎の村に刺さってるんだよ」
長老「まあ聞け」
長老「この剣はとてつもない斬れ味と頑丈さ、聖属性を備えたとんでもない名剣じゃが、その本質は別にあるという」
勇者「本質?」
長老「天界の女神の声を選ばれし者へと届けるという力じゃ。その声を聞けるのは聖剣に選ばれし真の勇者ただ一人という」
長老「古の勇者も、かつて魔王を葬る際にはこの聖剣の声……その勇者はアンカだかナンカだかとか言うとったな。その声に従い魔王を倒したとかなんとか」
勇者「なんか急にフワッとした話になってきたな」
長老「わしだって剣の声とか聞いたことないし」
長老「とにかくそんな言い伝えから、真の勇者を騙る偽物が現れないように「剣の声」の話は限られた者にしか伝えられていなかった」
長老「しかしその言い伝えを知らないお前さんが声を聞いたと言うのなら騙りということはあるまい……お前さんが真の勇者なのやもしれぬ」
勇者「そんな大層な声だけど、何言ってるかわからないぞ。アバダケダブラってなんだよ」
長老「……やっぱりちょっと怪しいかも」
長老「いや、とにかく台座から剣を抜いてみろ。その剣が抜けたのならやっぱりお前さんが真の勇者じゃ」
勇者「えぇ……まあいいけど」
ズボッ
長老「ほら見ろ!! やっぱり抜けた!! やっぱりお前さんが勇者じゃん!!」
勇者「なんかその勝ち誇った顔すんのやめてくれないか」
長老「とにかく、聖剣に選ばれし者が現れたことを王宮に報告せねば」
勇者「そんなに一大事なのか?」
長老「最近魔物の動きが活発化しとるじゃろ。何か災いの前兆やもしれぬ。聖剣が勇者を選ぶことも何かの知らせと思う」
長老「今日はもう家に帰れ。これからわし忙しくなるから」
勇者「なんかよくわからないけどわかったぜ」
長老「あ、聖剣は持っていくんじゃぞ。聖剣に選ばれし者は常に肌身離さず聖剣を持っておく必要があるからな」
長老「聖剣がいつ天の声を届けるかわからん。声が聞こえたならば必ずその声に従うように」
長老「よいか。安価は絶対。これだけは覚えておくんじゃぞ」
勇者「はいはい」
帰り道
勇者「なんか胡散臭い話に巻き込まれちまったな」
勇者「こんな古臭い剣が聖剣ねぇ……」
聖剣「……」
勇者「……」
勇者「よし、一丁試してやろうか」
勇者「聖剣よ。ここから俺の家に帰るまでに分かれ道がある」
勇者「右は遠回りで橋を渡っていく道」
勇者「左は教会とか畑とかがある道」
勇者「どっちから帰ればいいと思う?」
聖剣「>>21」 聖剣「お前に帰る道などない」
勇者「何言ってんだこいつ」
勇者「……え? 帰るなってこと?」
勇者「日も暮れてるし腹減ったしここ何もないし、嫌だよ。帰るわ」
勇者「長老は安価は絶対とか言ってたけどな。俺はまだお前を信用してないんだぜ?」
勇者「いいか。お前が俺を試してるんじゃなくて、今は俺がお前を試しているんだ」
勇者「お前の声が本当に信用できるかどうかは俺が決めるからな」
勇者「じゃあそう言うわけだから」スタスタ
グチャッ
勇者「……ん?」
ニチャァ
勇者「犬のウンコ踏んだ……」
翌朝
勇者「結局あの後は犬のウンコ踏んだ以外に特に何も起こらなかったな」
勇者「……別に、ウンコ踏んだのだってただの偶然だろうし。気にしてねえし」
勇者「今日はとりあえず村の広場にでも行ってみるかな」
広場
ワイワイガヤガヤ
勇者「……なんか騒がしいな。何が起こった?」
勇者「おーい。どうしたんだよこの騒ぎは」
村人A「ゆ、勇者……!!」
村人B「あれを見るんだ」
勇者「ん? 領主の娘の美少女ちゃんとブサメンくんじゃん」
勇者「……あれ? なんか二人、距離近くね?」
勇者「つーか、なんか、美少女ちゃん。顔赤くね」
村人A「あの二人、付き合い始めたらしいぜ」
勇者「……は?」
勇者「ど、どういうことだよ。美少女ちゃんが? あのブサメンくんと!?」
村人A「俺らに聞かれても困る」
勇者「なあ二人とも、一体何があったんだ?」
ブサメン「あ、勇者くん」
美少女「実はね。昨日の夕方、わたし、あの分かれ道のある池の前で盗賊に誘拐されそうになったの」
勇者(俺が聖剣に問いかけた道のことか)
俺達は起き上がり、うしろを振り向く。
ひしゃげた車が壁につっこんで、煙を上げている……。
……ふと気付くと、車と壁の間に、なにか変な形の固まりが、押し付けられたみたいにつぶれてる。
その変な固まりを中心に、壁にびっしゃりと、赤い液体が飛び散ってる。
まるで、大きな赤い花柄みたいに。
……耳につき刺さる高い音が、唯子の悲鳴だって気付くまで、ずいぶん時間がかかった。
唯子は、なんで叫んでるんだろ……?
俺は、ぼんやりと壁を見詰めていた。
変な固まりは壁でつぶれたトマトみたいに、微動だにしない。
あれがもし生き物なら、間違いなく死んでる。
……あれがもし、人間だとしたら、顔を壁に向けて、ちょうど背中の当たりで車に挟まれている形になる。
唯子はその変な固まりに駆けよって、車を必死にどかそうとしている。
……馬鹿だなぁ……。いくら唯子が力持ちでも、車は動かせないよ……。
ああ、唯子、だめだよ。手が汚れるからその変な固まりに触るなよ……。
車と壁の間から、唯子が変な固まりを引っ張り出そうとするたび、それはぶらぶらと力なく揺れる。
唯子の制服は真っ赤に染まってる。
……あーあ、後で洗うの、大変だぞ……。 小鳥に手伝ってもらわなきゃ……。
そう言えば小鳥は、どこに行ったんだろう?
小鳥は、ほら、もうすぐ車の下の方から、『いたーい……』なんて言いながら出てくるに決まってる……。
あはは、唯子、まわりの大人に叱られてる。
……あのオトナ達がいなくなったら、きっと、小鳥は車の下あたりから、『いたーい……』なんて、笑いながら出てくる。
そうに決まってる。
そうに決まってる。
絶対に。絶対に絶対に……。
気がついたら、俺も、変な固まりに駆け寄っていた。
鉄と、生肉の匂い。
ねえ、小鳥。
家に帰るから、そこから出て来てよ。
……うちに帰って、ごはん作って、ずっと、楽しく幸せに暮らすんだからさ。
3人でずっと仲良く。
ねえ。動いてよ、ねえ、小鳥……。
ねえ……………………。
勇者「領主の娘だもんな……危ないよな」
美少女「それで、たまたまその場に居合わせたブサメンくんがわたしを助けてくれて……」ポッ
ブサメン「そんな、僕はただ……」
美少女「いいのよブサメンくん。あのとき、とってもかっこよかったわ」
ブサメン「美少女ちゃん……」
勇者「…………」
勇者「まさか……」
その夜
勇者「なあ聖剣。俺がもしお前の言う通り、あのとき帰らずにあの場に留まり続けていたのなら」
勇者「もしかして、ブサメンくんの代わりに俺が美少女ちゃんを助けて、その、いろいろと……?」
聖剣「……」
勇者「……」
聖剣「……」
勇者「…………うそだろ」
勇者「ぐあああああああああああああ!! 美少女ちゃん、密かに憧れていたのにいいいいいい!!」ゴロゴロゴロゴロ
回想
長老『よいか。安価は絶対じゃぞ』
勇者「……ハッ!」
勇者「安価は……絶対……」
勇者「安価は絶対だったんだ」
勇者「そうすれば美少女ちゃんのときだってそうだし、あのとき犬のウンコも踏まなかったんだ」
勇者「安価は絶対……」
翌日、長老の家
勇者「長老!」
長老「おお、どうした勇者よ」
勇者「長老……俺、俺……!」
長老「……いや、皆まで言うな。顔を見ればわかる。安価を守らず、何か痛い目にあったな?」
勇者「!」
長老「よい。過ちは誰にでもある。大事なのはそれを次にどう活かすかじゃ」
長老「して、どうやらハラは括ったみたいじゃの」
勇者「……」
長老「勇者よ。まずは王都へ向かうのじゃ。そして、選ばれし勇者として、その使命を果たしてくるのじゃ」
勇者「ああ。わかった。俺、行ってくるよ長老」
勇者「ところで俺、まだ何すればいいのかわかってないんだけど、王都に行って何をすればいいんだ?」
長老「……ん?」
勇者「いや、俺に何か使命があるのはわかったけどさ。別に昔の魔王が復活したとか何か急な用事があるわけでもないし。王都に行って何をすればいいんだ?」
長老「……」
勇者「……」
長老「……ふむ」
長老「聖剣の声に従い、使命を果たすがよい。迷ったときは聖剣に頼るのじゃ」
勇者(長老もよくわかってなかったんだな)
旅立ちの日
勇者「じゃあ俺、行ってくるよ」
長老「気をつけるんじゃぞ。わしは王都に手紙出しとくからの」
勇者「旅立ちはいいけど、徒歩なんだよなあ」
勇者「田舎すぎて馬車とか通ってないし。貧乏な村だから馬すらねえし」
勇者「あ、そもそも馬買うお金もなかったわ」
勇者「……」テクテク
勇者「そうだ、困った時の聖剣頼りだ」
勇者「聖剣よ。俺は今から王都へ向かう。せっかくだし何か修行っぽいことしながら行きたいんだが、何か良い案はないか?」
聖剣「>>51」 ラブライブ板にクソつまんねえ安価スレ立ててたやつに似てるな
勇者「野盗やモンスターで実戦訓練しながら行け、か」
勇者「俺はまだお前を振るうのには未熟だってことかよ」
勇者「まあ確かにその通りだがな」
勇者「いいさ、やってやる。実戦訓練だ!」
一時間後
勇者「この辺、モンスターとかいなくない?」
勇者「まあ、ここ田舎だし。魔物が活発に動いてるのももうちょい栄えた街の周辺らしいし」
勇者「村の周りが平和なのはいいことだけどさ」
勇者「なんというか、拍子抜けだ」
勇者「……」テクテク
勇者「……」テクテク
勇者(……あれ、これこのままだと安価達成できなくないか?)
勇者「……」
勇者「……」
勇者「……」チラッ
聖剣「……」シーーーーン
勇者「ま、魔物とか野盗に遭遇しないのは別に俺のせいじゃないからなっ」
聖剣「……」
勇者「こんな安価だしたお前が悪いんだからな」
聖剣「……」
勇者「……」
勇者「…………………」ガタガタガタガタ
>>62
聖剣「ラブライブ板にクソつまんねえ安価スレ立ててたやつに似てるな」
勇者「は?いきなり何言ってるんだ?」
聖剣「すまない独り言だ、 >>56」
と、脳内変換すればいいじゃないか 勇者「嘘だろおい、こんな初っ端からつまづくって言うのかよ」
勇者「な、なにか別の安価を……」
聖剣「……」
勇者「一度出したものは取り下げないのか」
勇者「このままだと、また何かペナルティが……!?」
勇者「いや、落ち着こう。一度出したものを取り下げることは出来なくても、また追加で出したものを達成すれば1-1交換で帳消しにならないか?」
勇者「いや、なるだろ。多分」
勇者「追加安価をくれ」
聖剣「……」
勇者「……」
聖剣「……」
勇者「ああいや、別に一度目のやつを諦めたわけじゃないから。念のためのあれだから。一度目のやつも絶対達成するつもりで頑張るから。あくまでも追加だから」
聖剣「…………>>69」 更新も出来んくらい重かったのにどうやったら安価取れんのよ……
重いから書き込みボタン二回おしたらとっちゃったのよ
聖剣「……………………」
勇者「駄目かぁーー!!駄目なのかよ!!」
勇者「こうなったら王都への回り道になってでも野盗やモンスターを探さなければ」
勇者「野盗、モンスター、野盗、モンスター……!!」ダダダダダッ!
一週間後
勇者「野盗……モンスター……」ハァハァ…
勇者「やばい。一度王都が見えるところまで辿り着いたけど、王都近くの魔物とか騎士団に駆除され尽くしてたし」
勇者「王都近辺とか治安良すぎて野盗とか全然出ないし」
勇者「ついには王都西門にまで来たけど、まだ入るわけにはいかないから、結局一旦離れて南の方に向かって二日経ったけど未だ何とも出くわしてないし」
勇者「なんかもう水とか食料とか尽きそうだし」
勇者「……」
勇者「誰か……助けて……野盗……モンスター……」
南の平原
商人の荷馬車
商人A「さて、次の取引は王都だったか」
商人B「しっかし、平和ですなあ。せっかく高い金を払って護衛さんを雇ったって言うのに特に何とも出くわさないときたもんだ」
商人A「ははっ。まあ平和なのは良いことじゃないですか」
商人B「北や東の方ともなるとモンスターやらが活発に動いてると聞いたが、西と南は平和そのものですな。こちらに来るのに護衛なんて不要だったかもしれませんねぇ」
護衛の傭兵「……」
商人B「よう、傭兵さん。良い天気だな。こうも平和だとその立派な武器も泣いてるんじゃないかね」
傭兵「……」
商人A「Bさん、傭兵さんに当たるのはやめましょうや。出番がないとは言え、こっちのお願いを聞いてもらってついてきてもらってるんだ。失礼なこと言っちゃいけないよ」
商人B「ちっ、まあいいや」
護衛「……」
商人B「さぁて、川もあるしこの辺りで休憩としましょうや」
傭兵「……商人、あまり気を抜くな」
商人A「ん?」
傭兵「この辺りは新興の盗賊団が現れたという。金を貰っているからにはこちらも尽くすが、護衛対象に気を抜かれすぎるとこちらも困る」
商人A「へぇ」
商人B「なに言ってんだか。俺はそんな話聞いたこともありませんぜ」
商人B「Aさん、こいつ、仕事が回ってこないからってとりあえずそれっぽいこと言ってるだけだから、あまり間に受けちゃいけませんよ」
商人A「はぁ」
傭兵「……」
物陰
盗賊「お頭、商人らしき一団を発見しやした。荷馬車三つ。王都の方に向かってるんじゃないですかね」
お頭「護衛は?」
盗賊「さあ。特に目立った奴がいるわけでもねえし、いたとしても少数でしょう」
お頭「南の方の治安の良さに油断してるのか。この辺にアジトを作ったのは正解だったかもしれんな」
盗賊「おっと。一団、休憩に入ったようで」
お頭「荷を降ろして全員が出るまで待ってろ」
お頭「了解でさぁ」
商人C「と、盗賊だぁーー!!」
商人A「なんだって!」
商人B「ひ、ひぃ! この辺りに出るなんて聞いてないぞ!」
商人A「さっき傭兵さんが言ってたじゃないですか!」
商人B「傭兵! 傭兵! くそっ、あのやろう肝心な時にぃ!」
盗賊「あん? 傭兵雇ってんのかよ」
商人B「ひっ」
盗賊「まあ留守みたいだしさっさと終わらせてズラかるとするか」シャキン
商人B「ひゃあーー!!」
ズバッ!
盗賊「……がふっ」ドサッ
傭兵「だから言っただろうに」
商人A「傭兵さん!!」
商人B「傭兵! このやろ……! 出番だ! 高い金払ってんだからさっさとこいつらを追い払え! お前の仕事だろうが!」
傭兵「……」
ズバッ! ズバッ!
傭兵「……数が多いな」
盗賊「ちっ、あいつ鬼のように強いぜ!」
盗賊「一人で挑むな! 囲め!」
傭兵(一人ひとりは大したことはなくてもこの人数は厳しいな。私一人ならまだしも、休憩でこうも無防備に広がった荷馬車や商人たちを守り切るのは……)
??「おい!! あんたら!!」
傭兵「!」
商人AB「!!?」
傭兵「新手か……?」
勇者「なあ、あんたら、野盗だよな? どう見ても野盗だよな!?」
商人A「な、なんだあの男は……」
商人B「ボロボロの身なりに、痩けた頬……剣で武装している……その上、あの血走った目……!」
商人C「きっとやばい奴に違いない」
勇者「お前らには聞いてねえ! 俺はそこのやばそうな奴らに聞いてるんだ。野盗だよな?」
盗賊「お前にやばい奴とか言われたくないんだが」
傭兵「奴らは最近ここらを荒らしている盗賊団だ。商団の荷を狙い襲撃してきた」
勇者「盗賊団……?」
傭兵「ああ。そしてお前は何者だ?」
勇者「盗賊って野盗だよな。通行人を狙って追い剥ぎやら何やらしてくる奴らは野盗と呼んでいいはず。
盗賊に野盗は含まれないけど野盗に盗賊は含まれるわけだからつまりこいつらを倒せば安価である野盗や
モンスターを倒しながら実戦練習を達成できるはず。数は指定していないよな?だから一人でも倒せれば
俺は王都に入る権利を手に入れられるはずなんだよ。安価は「野盗やモンスターを」であって「野盗と
モンスターを」ではないのだからこいつらさえ倒せれば万事解決というわけだ」ブツブツブツブツ
傭兵「なんだこいつは……」
盗賊A「一人で何をゴチャゴチャ言ってやがる、キモいんだよ、死ねぇ!」
勇者「うるさい!!!」ズバッ!
盗賊A「ぐわぁ!」
傭兵「!」
勇者「あ。ノルマ達成?」
盗賊B「こいつ、Aの剣をまっぷたつにしながら斬りやがった!」
勇者「お前ら……」
勇者「ありがとう!!」
盗賊B「おんっ!!」ズバッ!
盗賊C「ひぃっ、こいつやべぇよ! 目とか頭とか!」
傭兵「……」サササッ
お頭「何をちんたらやってやがる。護衛は一人じゃなかったのかよ」
盗賊「お頭……それが、その一人が相当腕の立つ奴でして」
お頭「それでも一人だろうが!」
盗賊「そ、その上、なんだか頭のおかしい奴が加勢に来たみたいでして」
お頭「はぁ?」
盗賊「おかしいのは頭だけじゃなくて、どうやら俺らの鉄の剣ごとまっぷたつに切り裂いてくるようで、どうにも手が付けられず……」
お頭「一人だか二人だかにいちいち手こずりやがって……もういい! 俺が出てやる!」
傭兵「その必要は無い」
お頭「!」
盗賊「ひっ、出た!!」
盗賊「あ。でもこいつ、頭のおかしい奴じゃないですぜ。もともといた普通に強い奴でさぁ」
お頭「普通に強い、ねぇ」
傭兵「彼の目的が何かはわからないが、狙いはお前達のようだからな。彼が暴れている隙に頭を叩かせてもらおう」
お頭「けっ、普通に強い程度の奴が俺に勝てると思うのか?」
お頭「俺はこれでも昔は王都の騎士団に所属してたんだ。そんじょそこらの奴に負けはしねえよ」
傭兵「盗賊に堕ちた騎士崩れか。よほどの落ちこぼれだったのだな」
お頭「てめぇ……!」
傭兵「昔話はいい。手短に済ませよう」
お頭「っ! うおおおおおお!!」
ズバッ
お頭「……バカな……」ドサッ
盗賊「お頭ぁ!!」
傭兵「お前も余所見している暇があるのか?」
盗賊「……あ?」
ズバッ
その後
商人A「いやぁ、助かりました! ありがとうございます傭兵さん。あんたを雇って良かったですよ」
商人B「へっ、高い金払ってんだからこれくらい当然だろうぜ」
商人A「……お礼くらい素直に言いましょうよ」
傭兵「いや、その男の言う通りだ。仕事だからな。礼はいらない。報酬さえきっちり貰えればな」
商人A「それと、そこのあなたも」
勇者「いやなに、当然のことをしたまでです。むしろこっちがお礼を言いたいくらいで」
商人B(なんでスッキリしたような顔をしているんだ……)
商人A(まるで憑き物が落ちたかのようですね)
傭兵「……その剣」
勇者「ん?」
傭兵「……」
勇者「……な、なんだよ」
傭兵「いや。良い剣だと思ってな」
勇者「あ、ありがとう?」
傭兵「だが、技が拙い。盗賊どもの安物の剣だったから良かったものの、強者と戦うには使い手が幼すぎる」
勇者「……褒めるか貶すかどっちかにしろと言いたいけど、これは俺が貶されてるんだよな」
傭兵「ほう。怒らないのだな。戦士が技を貶されているというのに」
勇者「まあ、事実だからいいよ。これから強くなればいいんだし」
勇者「安価達成して気分がいいし」
傭兵(安価……?)
商人A「少ないですけど、謝礼を支払わせていただきたく」
勇者「謝礼? あぁ、いいですよそんなの。何度も言うけどこっちがお礼を言いたいくらいなんだ。困った時はお互いさまってことで……」
グギュルルルルル
勇者「……」
商人A「……おなか、空きませんか?」
勇者「はい」
商人A「ほう、勇者さんは王都へ向かっているのですな」
勇者「はい。一度王都の西門についたんですけど安価ができてないので王都に入れないくて南に行ったんです」ムシャムシャ
商人A(安価……?)
商人A「ええと、安価というのは通行証とかのことですかな?」
勇者「ああいえ、安価はもう達成したので王都に入れます。バッチリです」
商人A「???」
商人A「こほん。まあ問題が解決したのなら何よりですな」
商人A「ところで、これから王都へ向かうと言うのならば一緒にどうですか?」
勇者「一緒に?」
商人A「勇者さんの腕はこの目で確かめましたから。一緒にいてくだされば心強い」
商人B「おいおい、また穀潰しを増やすんですかい。一回来たんだからもう盗賊も出ないでしょうよ」
商人A「もう出ないという保証はないでしょう。勇者さん、どうです? もちろん、相場の報酬は支払います」
勇者「……うーん」
聖剣「>>105」 聖剣「適当に荷物を一つ斬れ」
勇者「えっ」
聖剣「適当に荷物を一つ斬れ」
勇者「……おいおいおい」
商人A「どうされましたかな」
勇者「ああ、いえ、ええと」
勇者(何でよりによってこんなタイミングでこんな安価が出るんだよ)
勇者(何考えてんだこの聖剣)ダラダラダラダラ… 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b)
商人A「ゆ、勇者さん。なんだか酷い汗が……どこか体調でも悪いのですか」
勇者「いや、あの、はい。大丈夫です」ダラダラダラダラ…
商人A「もしや、先ほどの戦闘でどこか怪我を……!」
商人A「誰か! 傷薬と解毒薬を持って来てくれ! 大至急だ!」
勇者「あの、本当大丈夫ですから」ダラダラダラダラ
勇者(これからしようとすることを思うとこの純粋な心遣いが痛い)
勇者「……」
勇者(……別に、どの荷物を切れとか指定はないよな?)
勇者(い、一番安そうなやつ……なんか小さめの……)
勇者(……あの荷馬車から見えてるちっこい箱のやつにしよう)
勇者(別に指定とかないもんな。ちょっと手元が狂ったとか、なんとか言い訳して。安いやつなら最悪弁償できるし)
勇者「……」
商人A「勇者さん? 急に立ち上がってどこに……」
勇者「えいっ」スパッ
商人A「あ」
傭兵「!」
勇者「あ、あはは。なんかちょっと手元が狂っ……」
商人A「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
勇者「!!?」
商人A「それはっ!! 王都の貴族との取引で使う品物!!」
勇者「えっ」
商人A「何やら偉く欲しがっていたものすごい貴重品!!」
商人A「それを手に入れるためなら金を惜しまないとすら言われたものすごい貴重品!!」
勇者「……」
商人A「これで貴族との取引は台無しだぁ!! ウチの商団の信用も地に落ちる!!」
勇者「……あの」
商人A「これは私の首が飛ぶどころでは済まないかもしれない!!」
勇者「……」
商人A「ああああああああああああ!!!!」
勇者「……ごめんなさ」ドンッ
勇者(……あれ?)
フラッ
傭兵「……」
勇者「傭……兵……!」
傭兵「これでも人を見る目はあったつもりなのだがね」
傭兵「君の狙いは最初からこれだったと言うことか」
勇者「……ぐぅ」ドサッ
傭兵「安心しろ。殺しはしない。ただ、王都の警備隊に引き渡し、罪相応の処罰を受けてもらうだけだ」
勇者「……」
勇者(意識が……)
王都、牢獄
ガシャァァン!!
警備「罰が決まるまでそこで大人しくしてろ」
勇者「……」
勇者「……」
勇者「……あれぇ?」
勇者「俺、安価守ったよな」
勇者「なのに意識奪われて、いつの間にか王都に連れてかれて牢獄に入ってる」
勇者「これっておかしくないか?」
勇者「……」
勇者「おい、聖剣!」
勇者「……」
勇者「……」
勇者「そう言えば牢に入れられるときに取り上げられてたわ」
荷物に潜んだ盗賊の残党がウギャーみたいなの想像してたんだけど思ったよりピンチ……
勇者「……」
勇者「これ、もしかしてあれか」
勇者「俺は切る荷物の指定は無いものと思って切ったつもりだったけど、よく考えたら「適当な荷物」って指定が入ってたんだよな」
勇者「それなのに、俺は……。「一番被害が少なそうなやつを選んで」切ってしまった」
勇者「ああ……これは……俺の甘さが招いた結果だったって言うのか」
勇者「くそ、くそ、くそぉっ!!」ガシャン、ガシャン、ガシャン!
勇者「安価は絶対だと! そう誓ったはずなのに!!」ガシャン、ガシャン、ガシャァン!!
囚人A「おい、今入ってきた新入りちょっとやばくね?」
囚人B「ああ、やばい。なんか独り言ブツブツ呟きながら牢に頭を打ちつけてやがる。絶対やばい奴だ」
勇者(あぁ……頭の打ちつけすぎで、意識が……)フラッ
回想
長老『過ちは誰にでもある。大事なのはそれを次にどう活かすかじゃ』
勇者「……ハッ!」
勇者「……」
勇者「長老……そうだよな。失敗に拘るよりも、次に活かすかどうかだよな」
勇者「ありがとう、長老」
勇者「俺、絶望しないで、もうちょっと頑張ってみるよ」
囚人A「おいおい、頭打ちつけんのやめたと思ったら急にキラキラした目で立ち上がってきたぞ」
囚人B「やばいな。絶望やばいわあいつ」
勇者「とにかく、この状況をどうにかしないとな」
勇者「商人さんの話だと、俺の処罰って結構重そうなんだよな……首が飛ぶとかなんとか言ってたし」
勇者「……」
勇者「……」
勇者「脱獄するか」
勇者「問題はどうやって脱獄するかだけど、安価……は出来ないな。聖剣無いし」
勇者「聖剣……そうだ聖剣だよ」
勇者「俺、聖剣に選ばれた勇者とか言われたけど、そもそも聖剣ないと何も出来ないじゃん」
勇者「傭兵にもそんな感じのこと言われたし」
勇者「……」
勇者「けど、そんな泣き言も言ってられないよな」
勇者「長老は、聖剣に選ばれた者は聖剣を肌身離さず持っておくようにと言ってたし、第一優先は聖剣を取り戻すことだな」
勇者「聖剣があれば脱獄だって問題ないはずだ。安価できるし」
勇者「聖剣の在り処をまずは調べないと」
勇者「なあ、あんたら」
囚人A「な、なんだよ」
勇者「? 何をそんなにビクビクしてるんだ」
囚人A「そりゃあお前……」
囚人B「おい、あんまり受け答えすんな。汚染されるぞ」
囚人A「お、おう」
勇者「汚染? どういうことだよ」
囚人A「……すまねえな。お前と話すことは何もない」
勇者「え、おい!」
囚人B「うっせえ! 喋りかけんな!」
勇者「俺が何をしたって言うんだよ……」
勇者「取り上げられた荷物がどこに行くか、知っておきたかったんだけどな……」
勇者「こんな薄情な奴らだったとは思わなかったぞ」
勇者「……」
勇者「牢獄に入ってる時点で悪人だったなそう言えば」
看守「ほら、就寝時間だ! さっさと寝ろ囚人ども!」
勇者「……今日は一旦休むとするか」
勇者「……思えば、こうしてゆっくり眠るのも久しぶりな気がする」
勇者「ここしばらく、野盗やモンスターを追ってギリギリを攻め続けていたからな……」
勇者「今夜くらいは……よく眠れそうだ……布団、固いけど」
勇者「……」パチッ
勇者「目が覚めた。朝か?」
勇者「……ああ、まだ夜か」
勇者「結構寝たと思ったんだがな……」
勇者「ん?」
カツ、カツ、カツ…
勇者(夜間の見回りか。寝たふりでもしておくか……)
看守A「しかし、あの大臣様も相当だな。いくら囚人の物とは言え、勝手に自分の物にしてしまっていいのか?」
看守B「ダメに決まっているだろう。ただ、まあ良いってことになるんだろうな。あの人の権力なら。偉く気に入ったみたいだし、結構な値打ち物みたいだぞ、あの剣」
看守A「でも鞘から抜けないんだろう? そんな剣持ってて意味があるのか?」
看守B「ただのコレクションだろ。そもそもあの大臣じゃあ剣が抜けても使えねえよ」
看守A「まあ、これはどうあれ、あの囚人の刑も決まったようなもんかね。まだ若いのにかわいそうに」
カツ、カツ、カツ…
勇者(……)
勇者「タイミング的に考えても、俺の聖剣のことだよな。今の話」
勇者「大臣が持ってるのか……厄介だな」
勇者「そして、俺の刑も決まったようなものだと」
勇者「これはいよいよ脱獄しなきゃならない訳だが、どうする……!」
ズキッ!
勇者「痛っ!」
勇者「……なんだこれ。額の傷……」
勇者「ああ、牢に頭を打ちつけた時のやつか」
勇者「よく見たら牢にも血がこびり付いてら。額からの出血って結構血が出るんだよな……」
勇者「……」
勇者「……これ、行けるか……?」
ガシャン!!ガシャン!!ガシャァァン!!
看守A「!?」
看守B「なんだ、この音は!」
看守A「地下牢からだ……行くぞ!」
囚人A「ひ、ひええ……!」
看守A「どうした! 何があった!」
囚人A「お、俺は知らねえ! 知らねえよお!」
看守B「落ち着いて話せ」
囚人B「そ、そこの牢のそいつが……」
看守A「そこの牢……?」
看守AB「なっ!!?」
勇者「…………」ドクドクドクドク…
看守A「血まみれ!?」
看守B「し、死んでる……?」
囚人A「そいつが、夜中に急に起き出して、頭を牢に……!」
囚人B「見てるこっちの気が狂いそうだったぜ……」
看守A「と、とにかく。囚人とは言え勝手に死なれるわけにはいかん。お前、救護を呼んでこい」
看守B「あ、ああ……こんなケースは初めてだ」
タタタッ
看守A「くそっ、おい。大丈夫かっ! しっかりしろ!」ガチャガチャ
ギィ…
看守A「まだ生きてるかっ? 脈は……」
ガシッ!
看守A「……へ?」
勇者「捕まえた」ドロドロヌチャァ
看守A「ぎゃあああああああ!!!」
看守A「あっ、あっ、」
ツルッ
ゴチーン!
勇者「あれ」
勇者「床の血に足を滑らせて勝手に転んで気絶してくれたか」
勇者「……まあ、俺のこと本気で心配してくれてたみたいだし、悪い人じゃなさそうだったし、こっちから危害を加えるのも気が引けてたからこれでいいか」
勇者「いやぁ、よかったよかった」ドクドクドクドク
囚人A「いや、血ぃめっちゃ出てるじゃねえか。やっぱ怖いよお前」
王城、中庭
姫「……」
姫「星が綺麗ね」
女騎士「姫、探しましたよ。こんなところにいましたか」
姫「あら、女騎士」
女騎士「もう夜も遅いです。早くお休みになってください」
姫「もう子供じゃないんだから、少しくらい起きていても良いじゃない」
女騎士「ダメですよ。大人でも、もう寝る時間ですからね」
姫「……けち」
姫「……」
女騎士「……何か、あったのですか?」
姫「ううん、何も。……ただ……」
女騎士「ただ?」
姫「少し、胸騒ぎがするの。何だか、近いうちに良くないことが起こりそうな、そんな気がしてしまって……」
女騎士「……」
姫「……何でもないわ。今の言葉は忘れてちょうだい」
女騎士「……はい」
姫「もう大丈夫。部屋に戻るわ」
女騎士「お供します」
姫「いいから。もう、子供じゃないんだからって言っているでしょう? 自分の部屋に戻るくらい、ひとりでできます」
女騎士「しかし……」
カンカンカンカン!!
脱獄者だぁーー!!
姫「!」
女騎士「!」
女騎士「姫、今度こそ我儘はいけませんよ。早く部屋に戻りましょう」
姫「……ひとりで戻れるってば」
女騎士「しかし……」
姫「女騎士もお仕事があるでしょう? ほら、緊急事態みたいだし」
女騎士「ですが、だからこそ姫の傍を離れる訳には……」
姫「もうっ。こんなにうるさくては眠れないわ。わたしのことは良いから、早くこの問題を解決してくださいっ」
女騎士「……絶対に戻ってくださいね? 寄り道をせず、真っ直ぐに寝室にお戻りください」
姫「わかってるってば」
女騎士「では、失礼します」
タタタッ
姫「……」
警備「そこの物陰にいるぞぉーー!! 追えーー!!」
バタバタバタバタ
勇者「くそっ、また見つかったのかよ!」
勇者「村の中では駆けっこも隠れんぼも圧倒的に一番だった俺がこうまで簡単に見つかるなんてな」
勇者「くそっ、悔しいが、王都の騎士は優秀だな! これで国も安泰か!」ビチャビチャビチャビチャ
警備「脱獄犯は血を垂れ流しながら逃走している! なかなかの遣り手だが、見失った時は床の血痕を探せぇ!」
勇者「はぁ、はぁ……地下牢から、随分と離れたみたいだけど、階段上りすぎたかこれ!」
勇者「大臣っつーから上の階にいるんだろうけど、このままだと見つける前に捕まっちまう!」
勇者「一旦外に逃げるか……!」
タタタッ
警備B「そこにいるぞぉーー!!」
勇者「!」
警備A「挟み撃ちだ!」
勇者「やばやばやば……!!」
勇者「ここは三階くらいかっ? こうなったら……」
勇者「窓から逃げる!!」
ガシャァァン!!
警備A「なっ!?」
勇者「ああああああああ!! 高い高い高い!! けどこれくらいなら何とか生きる!」
勇者(一旦城の外に出て、また後日取り返しに行くしかないか!)
警備A「窓から逃げたぞ! 中庭への窓だ!」
勇者「えっ、中庭?」
勇者「……あ、これ外に逃げられないじゃん」
ヒューーーーーー……
姫「……さて。そろそろ本当に戻ろうかしら。女騎士たちにもあまり心配をかけすぎても良くないものね」
ガシャァァン!!
姫「!?」
ヒューーーーーー……
ドチャッ!
姫「ひ、人が……!」
姫「大丈夫ですか!?」
勇者「うーん……」
姫「血がこんなに……大変! すぐに医者を呼びましょう!」
勇者「ああ、大丈夫だよ。心配いらない。この血は元々流れてたもんだし、落ちたことでのケガは無いよ」ムクリ
姫「元々そんな怪我をしながら窓から飛び降りたのですかっ。そちらの方が問題なのではと思うのですが!」
勇者「いやまあ色々事情があったんだよ……」
勇者「それより、そっちこそ怪我はないのか? ごめんな。下に人が居るなんて思わなくてつい窓から飛び降りちまった。ガラスで切ってたりしないか?」
姫「わたしは大丈夫ですけど……それより、下に人がいなかったとしても、つい窓から飛び降りてしまうというのはおかしいと思うのです」
勇者「他に方法がなかったんだから仕方ないだろ……」
姫「……? あの、ひとつ聞きたいのですが」
勇者「なんだよ。ちょっと今忙しいんだ」
姫「あなたは誰ですか? わたし、この城に居る者の顔は覚えているのですが、あなたに見覚えがありません」
勇者「あ」
こいつ全くレスついてないのに一人で書いてるの?
SSとは読者とのインタラクションの中で作っていくものであると考えている俺にとっては理解できないわ
勇者「……」
姫「……」
勇者「……け、」
姫「はい」
勇者「決して怪しい者ではないとだけ言っておこう」
姫「いえ、とっても怪しい人だと思います」
勇者「ぐ。さっきも言ったけど、色々と事情があるんだよ……俺には、やらなきゃならないことが……」
勇者「ッ!」バッ!
姫「? 急にしゃがみ込んで、どうしたのですか?」
勇者「……!! ……!!」
姫「……」
最後まで書ききってくれれば安価あってもなくてもええよ
中庭だー! 中庭に急げー!
姫「!」
バタバタバタバタ
警備「ひ、姫!? このような所で何を!?」
姫「……少し、星を見ていたの。すぐに部屋に戻るわ」
警備「は、はぁ……。あの、こちらで怪しい男を見かけませんでしたか?」
姫「怪しい男?」
警備「はい。顔から血を垂れ流しながら駆け回り、あの窓から飛び降りた気の狂った男なのですが」
警備「姫が中庭にいらっしゃったのなら、見かけていないかと」
姫「……」
姫「……」チラッ
勇者「……!!」ブンブンブン!!
姫「……そうね」
姫「見かけました」
勇者「……」
姫「その男なら、窓から飛び降りたあと、そちらの扉へ走って行きましたよ」
勇者「……!」
警備「は! ご協力ありがとうございます!」
警備「ところで姫、このような事態です。身の安全のため、部屋までお送りいたしましょう」
姫「わたしのことなら大丈夫です。もう子供じゃないのですから……あなたも女騎士のようにわたしを子供扱いするの?」
警備「い、いえ! そのようなことは決して!」
姫「それより、早くその不審人物を捕らえてください。こんなに騒ぎ続けられてしまうと、眠ることもできません」
警備「……はい。では、失礼しますっ!」
バタバタバタバタ
姫「もう、行きましたよ」
勇者「……ええと。頼んだ俺がいうのも何だが、良かったのか? 俺、確かに怪しい人物だと思うんだけど」
姫「いいんです。みんなわたしのこと子供扱いするんだから。たまには仕返しだってしたくなります」
勇者「お、おう」
勇者(と言うかこの人、お姫様だったんだな)
姫「それに、あなたは確かに怪しい人ですけど、悪い人には見えませんので」
勇者「……ありがとう」
勇者「……あ! そう言えば聞きたいんだけどさ。じゃなくて、聞きたいことがあるんですけども!」
姫「?」
勇者「えーと、大臣の部屋の場所って、わかるか?」
姫「大臣の部屋……?」
勇者「そう。そこに、俺の大事な物があるはずなんだよ。ちょっとしたゴタゴタで取り上げられちゃってさ……取り上げられちゃいまして」
姫「言い直すくらいならそのままの話し方でいいですよ。周りの目がある時はやめてほしいですけど」
勇者「……悪いな。敬語、出来ないわけじゃないんだが、今急いでてさ」
姫「それで、大臣の部屋ですか? 確かにわたしもあの大臣のことはあまり好きではないですけど、さすがにそこまで教えるのは……」
勇者「そっか。助けてもらった上に答えづらいことまで聞いちゃってごめんな。あとは自力で何とかしてみせるさ」
姫「……ちなみに、その大事な物とは?」
勇者「聖剣」
大臣の部屋
大臣「まったく、騒がしい……地下牢からの脱獄者だと? 看守は一体なにをやっとるのだ」
大臣「これが終わったら責任者はクビ、看守も警備も全員減給だな」
大臣「脱獄者が場内を駆け回るわ手に入れる筈だった例の品は真っ二つの状態で届けられるわで散々だ」
大臣「特に、アレを斬ったとかいう小僧は絶対に許さん。死刑だ死刑」
大臣「……しかし、この剣を手に入れられたのは幸運だったな」
大臣「何でも、例の品を一振りで叩き斬ったとか」
大臣「あの小僧には勿体ない。わしが管理してやろう」
大臣「……しかし、鞘から抜けんな。何か強力な魔法が掛かっているんだろうが……」
大臣「まあいい。王宮の魔法使いに解析させればそのうち解除できるだろう」
キツかったら後で立て直して続きからとかでもいいからキリのいいとこまでは頼むぞ
……
勇者「……あれが大臣の部屋か」
勇者「姫があのとき警備を誘導したのが大臣の部屋側じゃなくて助かった。けど、ここから先はやっぱり偉い奴の部屋の周りだからか警備が厳しいな」
勇者「ここまでは割とすんなり来れたが、見つからずに部屋に侵入するのは難しそうだ……」
姫「どうしますか?」ヒョコッ
勇者「どうするって言ってもなあ」
勇者「と言うか、こんな所まで一緒に来ちゃって本当に大丈夫なのか? 一応、お姫様だろ?」
姫「一応じゃなくても姫です。乗りかかった舟ですから」
勇者「……なんか楽しんでない?」
姫「…………」
勇者「楽しんでるんだ」
姫「……この国を思うがゆえの行動ですので」
勇者「はーん。立派だな」
姫「なんですかその言い方」
姫「聖剣を守ること。そして聖剣に選ばれし勇者を守ることはこの国を守ることに繋がりますので」
勇者「俺の話を割とあっさり信じてくれてしまって、嬉しいやら心配やらで少し複雑だよ俺は。大丈夫かよお姫様」
姫「……このところ、胸騒ぎを覚えていたのは本当です。この国に災いが降りかかるような、漠然とした不安というか、なんというか……うまく言葉に出来ないのですけれど」
姫「そして、あなたと聖剣が目覚めたこと。それは、その災いを打破することに繋がると、わたしは感じました」
姫「わたしの勘はよく当たるんです」
勇者「姫……」
姫「それはそうと、大臣の部屋への侵入作戦ですよね! わたし、良い案があるのですが!」
勇者(やっぱりちょっとワクワクしてるだろこの人)
勇者「何ですかね」
姫「わたし、姫ですから」
勇者「うん」
姫「本当はこんな時間にこんなところをうろついていてはダメなのです」
勇者「そうだろうな」
姫「だから、こう……囮作戦というやつです」
警備A「はぁ……くそ。俺、今日非番だったのになあ」
警備B「俺もだよ。まったく、脱獄とか。看守は何をやってんだか。こりゃあ明日は大臣のいつものアレでクビだの減給だのが飛び交うぞ」
警備A「うへぇ。……はぁ。どうせ部屋の警備するんならこんな大臣じゃなくて姫様の所の方が良かったよ。そうすりゃやる気も出るんだがなあ」
警備B「おい、ここ部屋の前だぞ。聞こえっちまったらお前のクビも飛ぶっての」
警備A「どうせ聞こえねえよ。今ごろグースカ寝てるんじゃないかね」
警備AB「わはははは」
姫「誰かー」
警備AB「!!!!」
警備A「ひ、姫の声だぞ!」
警備B「バカな。こんな時間のこんな所に姫がいるはずが……」
姫「きゃー。誰かー。助けてー」
警備A「……」
警備B「……」
警備AB「姫! 今行きます!!」
バタバタバタバタ
勇者「……お姫様ってすごい」
バン!
大臣「!!」
大臣「誰だ!!」
勇者「大臣様。その剣を返してもらいに来ました」
大臣「貴様……! そうか、脱獄犯とは貴様のことだったか、小僧!」
大臣「と、と言うか、何だその顔は! 血塗れの格好で、わしを脅すつもりか! その程度の脅しで屈しはせんぞ!」
勇者「あ、いえ。これは止むにやまれぬ事情がありまして」
大臣「衛兵! ここに来い! 脱獄犯を引っ捕らえろ!」
大臣「衛兵!!」
勇者「衛兵ならしばらくはここに来ませんよ。ちょっとどこかに行ってもらいました」
大臣「くっ……どいつもこいつも使えん奴ばかりよ……!!」
大臣「しかし、元はと言えばわしの品を破壊した貴様が悪い。この剣が元は貴様の物であろうと関係なかろう。弁償代と考えても足らんわ!」
勇者「あ。あの荷って大臣の品物だったんですね」
勇者「……」
大臣「その上、脱獄し、王城を駆け回り、あまつさえわしの私室にまで侵入して来おって……貴様は死刑だ! もう絶対に許さん!」
勇者「……」
勇者(……あれ、これ何も言い返せないや。これ大臣の言うことが最もだわ)
勇者「け、けれども! その聖剣はとても大事なもの。荷を斬ってしまったことは謝ります!」
勇者「ですからどうか、その聖剣は返してください!」
勇者「ついでに俺の死刑も取り消して!」
大臣「貴様、自分がどれだけ滅茶苦茶なことを言ってるのかわかってるのか?」
勇者(だ、大臣のご機嫌を取らなきゃ……何かないか。何かないか……何か……)キョロキョロ
勇者「!」
勇者「あ。これ、俺が斬った箱ですね」
大臣「!!!!」
勇者「あー……よく見たらお札みたいなのいっぱい貼られてるんですね。結界か何かかな?」
勇者「俺が斬った後にも貼り直してある。そんなに保護しなきゃならない貴重な品だったのか」
大臣「……」
勇者「そんな高級品とは知らず本当にごめんなさい」
勇者「ちょっと、中身が何か確認してもいいですかね。弁償とか、代わりになるもの探したりとかしますんで!」
大臣「……待て」
勇者「いいえ待ちません! 俺の罪滅ぼしのためです! せめて自分が何を壊したのかくらい確認させてください!」
大臣「待てと言っている! その箱に触れるな!」
勇者「いや本当ごめんなさい。マジで、許してもらうためにどうすればいいのかわからないんで! 謝るためにも見せてください!」
大臣「やめろ、開けるなァ!!」
勇者「許してください許してください許してください許してください」
カポッ
勇者「……へ?」
勇者「なんだこれ。……腕?」
勇者「何の腕だよこれ。なんか真っ黒だし。なんか人間の腕っぽい形をしてはいるけど、人の腕はこんなにデカくないし」
勇者「爪も長いっつーか、鋭いっつーか、毒々しいっつーか……」
勇者「え?」
腕「……」ワシャワシャワシャ
勇者「うわっ! 動いてるよこれ! 腕だけなのに!」
勇者「聖剣で斬られた断面同士でくっつこうとしてるのか……? けど、くっつきたくてもくっつけないようにも見える」
勇者「……と言うかこれ」
勇者「俺も実物は見たことないけど、まさか……」
大臣「……貴様の死刑は取り消してやろう」
勇者「!」
大臣「死刑まで待ってはおれん。今すぐこの場で殺してやる」
城内、廊下
警備A「姫ー! どこですか!」
警備B「おのれ脱獄犯め! まさか姫を攫い利用するとは!」
警備A「ぶっ殺してやる!」
バタバタバタバタ…
姫「……」
姫「い、行ったようですね」
姫「警備さん。わたしのために本気で怒ってくれていましたね」
姫「なんだか悪いことをした気がしてきました……」
姫「……それにしても。警備さんから逃げ切るだなんて、なかなかやるじゃないですか、わたし」
姫「ちょっと自信が付いたかもしれません」
姫「もしかして……才能があるのかも」
姫「ふふっ」
女騎士「気は済みましたか、姫」
姫「ええ。とっても」
女騎士「……」
姫「……」
姫「……あ」
女騎士「はぁ……。あれほど部屋に戻っていただくよう、約束しましたよね」
姫「……はい」
女騎士「私との約束は、守れないですか?」
姫「そ、そんなことありません」
女騎士「では何故、こんな時間まで城内をうろついているのです。警備の者をからかったりまでして」
姫「……ごめんなさい」
女騎士「事態が事態です。城内を危険人物が駆け回っている中、姫が一人で出歩くなどと。状況がわかっているのですか?」
姫「ゆ、勇者様は危険人物などでは…………あっ」
女騎士「……」
姫「……」
女騎士「会ったのですね。その者に」
姫「……はい」
女騎士「詳しくお話を聞かせてください」
大臣の部屋
大臣「……」ガチャ
勇者「大臣……そんな物騒な物構えてどうしたんですか。そもそも何で私室にボウガンなんか置いてあるんですかね」
大臣「護身用だ。……それを見られたからには生かしておけん」
勇者「……この腕、魔物の……と言うか、悪魔の腕ですよね」
勇者「俺も悪魔は伝聞や絵でしか見たことないし、詳しくなんかないですけど、何となくわかります」
大臣「ふん。わしが何を集めていようと貴様に関係なかろう」
バシュッ!
勇者「ッ!」バッ
ドスッ
ジュウウゥゥ…!
勇者「……なんで矢が刺さった程度で壁が溶けるんだよ……!」
大臣「この矢には劇毒スライムの身体を刻み、濃縮したものを塗り込んでおる。掠っただけでも命は無いと思え」
バシュッ!
勇者「くそッ! それ絶対違法なやつだろ!」バッ
勇者「せめて何か武器があれば……」
バシュッ!
勇者「あぶなっ!!」ドスッ
大臣「貴様、その机を盾にしたな!? その机がいくらしたと思っている! それも貴様の命で払いきれる物ではないぞ!」
勇者「知るかよ!」
バシュッ、バシュッ、バシュッ
勇者「くそ、この机が溶けてグズグズになるのも時間の問題か……!」
勇者「大臣の腕がへっぽこだから今は何とか避けきれているけれど、それでもいつかは当たっちまう」
大臣「さっさと死ねぇ!」バシュッ、バシュッ!
勇者「それに、こうも連射されちゃあ近づけないぞ。近づいたとしても、あの毒矢を持って振り回されたりしたら、掠っただけでも死んでしまう」
勇者「せめて、聖剣があれば安価で打開策を得られるかもしれないのに……!」
勇者「……」
勇者「ん?」
大臣「ああああああああ!!」バシュッ、バシュッ!
勇者「……あるじゃん、聖剣。大臣の手元に」
勇者「剣に直接触れていなくても安価は貰える」
勇者「台座の剣を引き抜く前にも聞こえたんだ。今ここで聞こえない道理はない……!」
勇者「聖剣よ、力を貸してくれ! 大臣を倒す方法を!」
聖剣「>>205」 >>207
アルミが強酸で溶けずに弱酸でだけ溶ける的な 聖剣「魔物の腕を使え」
勇者「魔物の腕を……使う……!?」
勇者「使うって、どうやって!」
聖剣「……」
勇者「……自分で考えろってことか。相変わらず不親切な剣だよ」
勇者「けど確かに、これを利用するのはアリだな……」
勇者「この爪とか普通に凶器みたいなもんだし。大臣はこれを大事そうに扱ってたから、もしかしたら盾にするだけで攻撃を遠慮してくれるかも……!」
勇者「よし、そうと決まれば!」
大臣「!、それに触るな! 何をするつもりだ!」
勇者「なに、ちょっと借りるだけだよ!」
ガシッ!
腕「……!」ビチビチッ、ビクンビクンッ!
勇者「うわ、動いたっ、キモッ!!」ブンッ!
ビュッ!
大臣「えっ」
グサッ!
勇者「あっ」
大臣「ぐあああああ!?」
大臣「痛い! 痛いぞぉ!!」ジタバタジタバタ!
大臣「腹に! わしの腹に悪魔の右腕がぁ!!」ゴロゴロゴロゴロ!
勇者「……」
勇者「計算通りだ」
普通に面白いから設定詰めてなろうとか送ったらいいと思う
大臣「ぐああああああああ!!」
勇者「……えぇと。とりあえず聖剣は回収させてもらうけど」
大臣「ああああああああ!!」
勇者「……」
大臣「助けてくれえええええ!!」
勇者「……いくら悪い奴だからって、このままにしておく訳にも行かないよな」
勇者「大臣、少しジッとしていてくれ。いま引き抜くから」
大臣「早く! 早くせんか!!」
勇者「大の大人がそんなに痛がるなよ。腹の脂肪が厚いんだから少しくらい我慢しろって」
勇者「よっと」
グイッ、グイッ!
勇者「……あれ?」
グググググッ…!
勇者「ぬ、抜けない……」
腕「……」ズリュ…
勇者「抜けないどころか、これ……」
腕「……」ズリュズリュズリュッ!
勇者「こいつ、大臣の身体に入り込もうとしてやがる!」
ズリュズリュズリュズリュズリュズリュッ!!
ズリュンッ!
勇者「か、完全に入り込んじまった」
勇者「……」
大臣「……」
勇者「……大臣?」
大臣「……」
勇者「おい、どうしたんだよ。さっきまで元気にのたうち回ってたってのに」
大臣「……」
大臣「……」
ズズズズズズ……!!
カッ!!
大臣「……」バサッ!
勇者「立ち上がった……けど」
勇者「肌が黒く変色して、翼まで生えちまって。これじゃあまるで悪魔じゃねえか!」
バン!
女騎士「大臣! ご無事ですか!」
勇者「!」
大臣悪魔「……」
女騎士「……これは……どういうことですか」
勇者「ええと、あんたは?」
姫「わたしのお付きの女騎士です」
勇者「姫!」
姫「しかしこれは……勇者様、いったいなにがあったのですか!?」
勇者「……」
勇者「……これ、説明するの時間がかかりそうだし後にしてくれないか」
女騎士「いいから答えてください! この悪魔……大臣の面影があります! この方は大臣なのですか!?」
勇者「……うん。端的に言うと、そうなる」
女騎士「どうしてこのような姿に!」
勇者「だから、それを話せば長くなるんだって! こいつはそれを待ってくれるのか!?」
大臣悪魔「……」ズズズ…!
女騎士「ッ!」
女騎士「姫! 退がってください! 私の後ろに。決して離れないように!」
姫「は、はいっ」
女騎士「あなたは……ああもうっ、後でちゃんと説明してもらいますからね!」
勇者「……来るぞ!!」
女騎士「わかっています!」
大臣悪魔「グオオオオオオオオ!!」
ジャッ!
女騎士「くっ!」
ギィン! ズバッ!
大臣悪魔「グオオ……!」
シュウウゥゥ…
女騎士「斬った筈なのに……この再生力、本当に悪魔のような……!」
女騎士「けど、後ろには、行かせません!」
ガァン!
大臣悪魔「……!!」ズザァッ!
女騎士「勇者さん!」
勇者「ああ!!」ブンッ!
スパッ
勇者「くそっ、浅いか!」
女騎士「なんですかそのへっぴり腰は! そんな振りで当たる訳がないじゃないですか! あなた、本当に姫が言っていた言い伝えの勇者なのですか!?」
勇者「うるさいなちくしょう! 俺だって気にしてるんだ! こっちはまだ修行中なんだよ!」
大臣悪魔「グ……グオオオオ……!!」
勇者「……あれ? 意外と効いてる……?」
女騎士「えぇっ!?」
勇者「ああ、確か長老が言ってたな。この剣ってなんかすごい聖属性があるらしいぞ」
勇者「聖属性って悪魔に効くんだろ?」
女騎士「……その剣、私が使うことはできますか!?」
勇者「いや、どうだろ。なんか俺意外だと鞘から抜くことも出来ないみたいなんだけど。抜き身の状態で誰かに渡してどうなるかは試したことないし全然わからない」
女騎士「選ばれし者のみが使える聖剣……! くっ、もどかしいですね!」
勇者「俺を睨むんじゃないよ!」
女騎士「とにかく、私は姫の傍を離れる訳にはいきません。最低限のサポートしか出来ないのであなたががんばってください」
勇者「頑張るっつっても……!」ブンッ!
スカッ
勇者「く、」
女騎士「ものすごく警戒されているじゃないですか。さっきのチャンスで仕留めていれば……!」
勇者「……あの。ちょっと本格的に傷つくので俺への口撃を少し緩めてほしいかな」
勇者「このままじゃジリ貧だ……!」
勇者「聖剣、頼む! この悪魔を倒す方法を!」
聖剣「>>235」 啜れ羊頭の奴隷、鎖せ峻拒の天蓋。
黒鷺、標、射干玉、普く王座の簒奪者。
九泉を巡りて錆色に染まりし顎門よ。
歓喜せよ。
狂乱せよ。
地上に蔓延りし幽けき定命の者共、我が慈悲により苦痛なき死を賜う。
滅びよーーーー【獄闢分命・道断躑躅】
聖剣「啜れ羊頭の奴隷、鎖せ峻拒の天蓋。
黒鷺、標、射干玉、普く王座の簒奪者。
九泉を巡りて錆色に染まりし顎門よ。
歓喜せよ。
狂乱せよ。
地上に蔓延りし幽けき定命の者共、我が慈悲により苦痛なき死を賜う。
滅びよーーーー【獄闢分命・道断躑躅】」
勇者「……」
勇者「……!」
勇者「…………!!」
勇者(なにいってんだこいつ)
勇者「いやいや待て待て。諦めるな。思考を止めちゃダメだ。一旦整理しよう」
勇者「これパッと見、指示というより何かの詠唱か? つまりこの詠唱で発動する何らかの魔法があって、それをこいつに打ち込めば効くってことか!?」
勇者「思えば、これと似たような謎の呪文っぽいのを一度聞いてるんだよな、俺。確かアバダナンタラだったか」
勇者「あの呪文の意味も結局わからず仕舞いだったが、こう、魔力的な何かを込めて叫んでいたらあの時何かが発動していたのかもしれない」
勇者「これは何かのチャンスの筈だ! ぶっつけ本番だけど、やるしかねえ!」
勇者「ええと、確か……!」
勇者「––––啜れ羊頭の」
大臣悪魔「グオオ!!」
ジャッ!
勇者「あぶなっ!」
ギィン!
勇者「くそ、もう一度……! ––––啜れ羊頭の鎖す」
大臣悪魔「グオオ!!」
ジャッ!
勇者「邪魔すんなって!」
ガァン!
勇者「もう一度だ!」
勇者「––––羊頭啜る鎖せ……」
勇者「……」
勇者「……あれ、啜る羊頭がだったっけ」
勇者「––––啜る羊頭が啜れ鎖し……」
勇者「……」
勇者「……ええと」
勇者「……なんとかの天蓋が……」
勇者「……」
勇者「……やべ、何言ってたか忘れたわ」
勇者「もっかい!! もっかい言ってくれ!! 次こそちゃんと覚えるから!!」
聖剣「……」
勇者「……」
聖剣「……」
大臣悪魔「グオオ!!」
ドガァ!
勇者「ぐわー!!」
女騎士「ひとりでブツブツ何言ってるんですかさっきから!?」
女騎士「真面目に戦ってください!」
勇者「真面目にやってるよ! でも安価が!!」
女騎士「それならまださっきのへっぴり腰剣術の方がまだマシです!」
勇者「だって安価が!!」
女騎士「前を向いて、剣を振ってください!」
勇者「けど安価は守らなきゃ!!」
女騎士「安価安価って、さっきから何なんです!?」
大臣悪魔「グオオオオオオオオ!!!」
ガシャァァァン!!
女騎士「ああっ、悪魔が窓を突き破って外に!」
勇者「くそっ、俺が安価を守れなかったばっかりに!」
女騎士「もういいですから、それ!」
女騎士「それより、あんなものがこの部屋の外へ……王都はパニックになりますよ!」
勇者「ごめんなさい!!」
女騎士「本当ですよ!!」
大臣悪魔「グオオオオオオオオ!!」
ドッカンバッガンバキバキグシャア!!
姫「ああ、お城が壊されていく……」
勇者「な、なんとかしなきゃ……そうだ、また安価で!」
女騎士「それ一旦やめてください!」
勇者「何でだよ!」
女騎士「見てわからないんですか!?」
大臣悪魔「グオオッ!?」
バチバチバチバチバチ!!
勇者「な、なんだ……!? あの悪魔、空中で何かにぶつかったように……捕らえられているのか?」
女騎士「あれは……! そう、あなたが脱獄してから張られた、城の周囲の結界です!」
女騎士「まさかこんな形で使えることになるなんて」
勇者「俺の脱獄のおかげか」
女騎士「……」
勇者「……いや、ごめん。今のは俺が悪かった」
女騎士「悪魔、墜落します!」
勇者「倒したのか!?」
女騎士「いいえ、あの結界はあくまでも身動きを封じるためのもの。攻撃的な性能はそれほどありません……」
勇者「……なら、とどめを刺しに行かないとな」
ガッ
女騎士「えっ?」
姫「ゆ、勇者さま? 窓枠などに足を掛けて、どうするおつもりですかっ」
勇者「……自分の尻は自分で拭うよ。あいつは、俺が始末する」
女騎士「ちょっと! そんな所から飛び出したら……! ここ、何階だと思っているんですか!?」
勇者「大丈夫だ。……なんか、この聖剣を引き抜いてからちょっとばかり身体が頑丈になった気がする」
勇者「これくらいなら、平気だと思うんだ」
ググッ…
勇者「あの位置で結界に掛かってくれてよかった。もうちょい遠かったら、届かなかったかもな」
勇者「……行くぞっ!」
ダッ
大臣悪魔「グオオオオオオオオ……!!」
ヒューーーーーーーー……
勇者「うおおおおおお!!」バッ!
大臣悪魔「!?」
勇者「悪いな、大臣さん。俺も本当は、あんたをどうにかしてやりたかった」
勇者「……俺の、力不足だ」
ドシュッ!
久々の読ませてくれる安価SSだわ
ほぼ安価してないけど
まともな安価が続かないVIPではこの形が正解なのかも